導入事例

トヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ自動車)のカスタマーファースト推進本部(以下、CF本部)は、デジタル技術を積極的に活用し、業務改革を進めている。中でも近年注力してきたのが、日常業務を支える物品やサービスの購入に関する経理処理の効率化だ。従来のアナログで複雑なプロセスと、それに起因する手戻りの多さや担当者にかかる心理的な負荷といった課題を根本から解決すべく、クラウド型ローコードプラットフォーム「Accel-Mart Plus」を導入。NTTデータ イントラマート(以下、イントラマート)と協働して米国SOX法の監査要件にも対応するシステムを構築した。トヨタ自動車ならではの「カイゼン」のDNAを反映した取り組みにより、業務ステップ数を約半減させ、業務効率化と強固な内部統制を同時に実現した。
※本記事に掲載されている所属部署・役職は取材当時のものです。
課題
日本を代表する世界有数の自動車メーカーであるトヨタ自動車。同社のCF本部は、世界中で稼働する1億5000万台のトヨタ車のユーザーに対し、製品ライフサイクルの全体を通して寄り添うことをミッションに掲げる。品質保証対応、認証試験業務、アフターセールスの体制整備など、安全と品質を担保する業務を網羅的に担う組織だ。同社が最初期に量産したトラックである「G1型」で不具合が発生した際、創業者の豊田 喜一郎氏が自ら現場に赴いて修理を行い、素早く設計変更を行ったというエピソードに象徴される「現地現物」「品質第一」「お客様第一」の精神は、現在のCF本部にも深く根付いている。近年、顧客や販売店との接点のデジタル化にも取り組み、こうした価値観を指針にして、より高度な顧客対応体制を再構築しているという。
CF本部は顧客や販売店との接点の高度化に加え、社内においてもデジタルの力を積極的に活用した業務変革を進めている。その重要プロジェクトの一つが、日常的な物品やサービス購入に伴い発生する年間1万件以上の経理処理の効率化・高度化だ。従来、見積り・企画・決裁・発注・検収・支払といった一連のプロセスのほとんどはアナログで作業しており、個別にExcelファイルを作成、回付する方式で処理していたという。CF本部全体のデジタル化推進を担うカスタマーファースト統括部 主任の佐井 友洋 氏は次のように振り返る。
「担当者は見積書を取得したら、それを基にExcelで企画の決裁書を作って回付し、決裁者は印影の画像を貼り付けて決裁するという、ほぼ紙と変わらない運用だった。さらに、その決裁書を見ながら担当者が手動で別の発注書用Excelファイルを作成して発注し、納品されたらさらに別の検収書用Excelファイルを作成するというように、プロセスが進むごとにファイルを都度作成し、手動でデータを転記していた。電子帳簿保存法(電帳法)を遵守するための証憑類の保管や部内共有でも二重の手作業が発生するなど、業務効率が低いという課題があった」
また、起案者や決裁権者ごとに経理処理に必要な手順や規則に対する知識にばらつきがあり、後工程で手戻りが発生するケースが少なくなかった。特に起案者の経理処理に対する心理的負荷も高まっていたという。
カスタマーファースト推進本部
カスタマーファースト統括部 主任
佐井 友洋 氏
同本部では、ルールを明文化した共通マニュアルを整備するとともに、電帳法などの法規制に則って処理を進めることの重要性や意義を浸透させるため、教育や啓発に徹底して取り組んだものの、問題の根本解決には至らなかった。
マニュアルを整備、周知して教育を徹底しても、人間の手作業を前提とする以上ヒューマンエラーは排除できない。「業務が正しく行われているかを確認する」チェックリストを作成したものの、チェック工数が肥大化した上にチェック漏れも発生した。こうした状況を抜本的に改善し、業務効率と品質の向上を両立させるべく、システム化を決断した。
導入
CF本部は2024年10月にプロジェクトを始動させた。まずは業務フロー図を作成し、経理プロセス全体を可視化するとともに、あるべきプロセスを一から整理した。これを踏まえて導入製品の選定を進め、パッケージ型ワークフロー、ローコードプラットフォーム、フルスクラッチでのシステム開発などの選択肢を比較検討し、最終的にAccel-Mart Plusを採用した。カスタマイズ性、コスト、開発リードタイム、システム連携機能などの観点で要件充足度が高かったことが決め手になったという。
「見積、企画決裁、発注、検収、支払いまで、一気通貫でワークフローを回せる高付加価値なユーザー体験を提供するには、カスタマイズ性の高いintra-mart基盤をクラウドで提供しているAccel-Mart Plusが適していると考えた。また、承認者を自動判定するための人事システムとの連携や、会計システムへの支払いデータの自動連携を見据えていたため、API連携や外部サービス連携の機能が充実していたintra-martには高い優位性があった」(佐井氏)
部署ごとにバラバラだった決裁書類の運用方法を統一することで、業務の品質が一定に担保され、処理プロセスのどこで滞留が起きやすいかが把握できるようになった。こうしたプロセスやそれにおけるボトルネックの可視化もシステム導入の狙いの一つであった。
さらにコスト面では、「利用者が非常に多い一方で、実際に業務を行うタイミングは限定的であるため、ユーザー数に比例しない、CPUコアの性能やコア数を基にしたライセンス体系であるintra-martは扱いやすいと評価した」(佐井氏)という。
また、イントラマートの技術営業(プリセールス)が実施したデモのクオリティの高さも採用を後押しした。佐井氏は「intra-martの備える豊富な機能群の魅力をしっかり伝えていただき、社内での評判も上々だった」と語る。
本格的な開発は2025年7月にスタートした。プロジェクトの推進にあたっては、手戻りを最小化するために「業務フローと画面モックアップを事前に作成する」方針を徹底。「どの画面で、誰が、何を、なぜチェックするのか」「どの情報を後続画面に引き継ぐか」を事前に細かく議論・定義したことで、後工程での認識の齟齬を抑え、手戻りの少ない開発を実現したという。
また、中長期にわたり持続的に改善・保守できる体制づくりも重要なテーマだった。完全内製化も選択肢だったが、保守の属人化や人事異動によるシステム仕様のブラックボックス化を避けるため、専門性を持つ開発パートナーと連携する方針を定めた。トヨタ自動車がプロジェクト管理、業務要件、UI/UX、実務面の意思決定を担い、開発パートナーがトヨタ自動車の決定に基づくシステム設計とバックエンド実装を担当。アジャイル/スクラムによる開発体制を構築した。
〇システム概要図
効果
2026年6月に本稼働した新システムは、CF本部の約2,000人が利用している。導入による定量的効果として、業務フローベースでの処理ステップ数を従来の最大57ステップから31ステップへと約46%削減し、作業時間短縮も見込んでいるという。
劇的な業務効率化を実現できた要因には、システムが自動で入力チェックを実行する仕組みを実装し、人が目視で行っていた入力内容や処理手順のチェックを廃止できたことや、データの自動引き継ぎによって手動での転記が不要になったことなどがある。加えて、電帳法対応の文書管理システムに自動的に証憑データを連携・保管する仕組みを構築したことにより、個別に行っていた見積書や発注書のアップロード作業、社内共有用のMicrosoft SharePointへの二重保管、決裁権者による保管確認といった作業もすべて廃止できた。
起案担当者の心理的な負荷が低減され、決裁権者も申請の背景や経緯を把握しやすくなり決裁の妥当性の判断に集中できるようになるなど、定性的にも大きな効果が表れている。担当者や決裁権者が実際に閲覧するフロントエンドの開発については、開発コストよりもUXの充実度を重視したという。ユーザーの手数を究極に減らしていった結果、見積書PDFと入力項目を横並びで表示する見せ方がよいと考え、UIをスクラッチでカスタマイズした。佐井氏は「フロントエンドはユーザー体験がなにより最優先。要望を可能な限り実現するためにフルカスタマイズが可能なスクラッチ開発を選択し、画面を作り込んだ。利用者の体験のためにはコストをかけることを惜しまないのがトヨタらしさだ」と話す。一方、バックエンドの承認ルート制御やステータス管理は、「IM-Workflow」の標準機能を生かしローコードで開発する「ハイブリッド開発」を実践した。こうした開発面でのこだわりが、ユーザーにとっての使いやすさと確実なデータ整合性につながっている。
さらに、内部統制も大きく強化された。トヨタ自動車は米国市場に上場しているため、極めて厳格な監査基準への適合が求められる。新たな経理処理システムは後続の会計システムにデータが流れることから、「米国SOX法」の監査対象システムに指定されるという想定外の事態が本稼働の直前に発生した。そこで、Accel-Mart Plusのインフラ側に責任を持つNTTデータ イントラマートと一体となって対応を進め、ソースコード修正・デプロイ時のビジネス承認フローの厳密な定義や、追跡調査可能なログの出力仕様、アクセスログの確実な保管、日々の死活監視プロセスの定義などを一つひとつ共同で構築した。こうしたプロセスを経て監査基準をクリアし、米国SOX法への対応も実現している。
未来
当面は新システムをCF本部内で確実に定着させることを最優先に考えているという。そして現場からのフィードバックを踏まえ、システムの継続的な改善や機能拡張も進めていく構想だ。
また新システムを段階的に他本部へ展開していく構想もある。CF本部は今回のプロジェクトの初期段階から全社統括の経理本部と連携しており、同本部をハブとして、他本部へ新システムを紹介する体制ができているという。将来的には、経理プロセスの前工程にあたる予算管理や後段の会計システムへのシームレスな連携を含め、より広範な業務プロセスの最適化に取り組むことも視野に入れている。その実現手段の一つとして、イントラマートの次世代業務改革ツール「IM-BPM」にも注目している。
また、テクノロジー面では、生成AIを活用し、経理ルールや法務ルールに則った判断の自動アシスト機能の実装も見据えている。起案者が入力した企画内容テキストから、取引先が「取引適正化法」の対象になるかをAIが自動判定する仕組みや、支出が税務上で「無形固定資産」に該当するのか、「通常の経費」なのか「前払費用」なのかをAIが自動的に分類して起案をアシストする仕組みなどは実現できるとみている。さらには、経理マニュアルやルールに関するQ&A基盤として、「IM-Copilot」のWikiアシスタントなど、RAGを活用した機能にも関心を寄せているという。
トヨタ自動車のものづくりの絶対的な信念である「安全>品質>量>コスト」という考え方は、今回の新システム構築でも一貫しており、徹底して高品質なシステムを作り込んだ。「業務プロセスを見える化し、無駄や滞留を徹底的に削ぎ落としてカイゼンする」というトヨタ自動車が誇るDNAは、この経理DXプロジェクトにも発揮されていた。

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