導入事例

大鵬薬品工業株式会社(以下、大鵬薬品)は、製薬会社特有のGxP(※)要件を遵守しつつ、GMP(適正製造規範)業務における出荷判定と製品品質照査の大幅な効率化を実現した。従来、同社のGMP業務では、複数システムにまたがるデータや紙媒体の情報を手作業で収集して製品の出荷判定や製品品質照査を行っており、膨大な業務負荷とプロセスの暗黙知化が課題であった。この課題を解決するために、同社は業務プロセス管理(BPM)の概念を取り入れたシステム化を決断。システム基盤となる「intra-mart Accel Platform」とBPMツール「IM-BPM」を導入した。この取り組みは単なるペーパーレス化にとどまらず、業務プロセスの標準化、システムを横断したデータ活用基盤の構築を実現した。これにより、出荷判定で74%、製品品質照査で78%の業務時間削減を実現した。
※ 製薬業界における製造管理や品質管理の法規制やガイドラインの総称。GMP、GCP、GLPなどを含む。
課題
大塚グループに属する大鵬薬品。「チオビタ・ドリンク」や「ソルマック」などのコンシューマーヘルスケア領域の商品で広く知られているが、独自の創薬プラットフォームを強みに革新的な医療用医薬品の開発にも取り組んでおり、特に抗がん剤領域における強みを持つ。
同社は以前からデジタルテクノロジーの活用にも積極的だった。2013年に徳島県内2カ所目の工場として竣工した北島工場では、稼働当初からMES(製造実行システム)やLIMS(試験室情報管理システム)が稼働している。品質イベント管理システム、文書管理システム、教育管理システムなども随時導入し、GMP(適正製造規範:医薬品の安全で高品質な安定供給を担う)部門の業務も複数のシステムを導入することでデジタル化していた。
しかし徐々に課題が顕在化していく。業務単位でのデジタル化は進んだが、各システムが独立してデータを管理していたため、横断的にデータを活用する業務においては工数が膨大になる。特に、製品の出荷判定や、GMP上の必須プロセスである製品品質照査(1年間の品質データを包括的に分析して生産プロセスの改善点を確認する営み)といった重要な業務においても、人手による作業の非効率性が課題となった。品質保証部 北島PQA課 担当課長の小山 健太 氏は次のように説明する。
「出荷判定ではMESにある製造記録、LIMSの試験記録、紙媒体での記録、さらには製造途中の変更管理など品質イベントを取り扱うシステムなども確認する。定められた製造プロセスやルールが適切に実行されているかを、各システムの履歴をたどりつつトレースし、品質管理に問題がないことを確認できてはじめて出荷判定を下せる。また、製品品質照査業務では1年間のデータのトレンドを確認し、安定的な生産のために生産プロセス自体を見直すなど、改善施策を行っている。こういったシステム間のデータを横断的に確認する必要のある業務でも、データを手作業で収集し、突き合わせていた。また、収集したデータを別のアプリケーションで分析するため再整理が必要になることもあり、非常に手間と時間がかかっていた」
人がマニュアルに則って作業し、データを収集・統合していても、局所的な業務プロセスは暗黙知化されていた。大鵬薬品では全社的なデジタルトランスフォーメーション(DX)推進の中で、経営視点からこうした課題を解決しようという機運が高まり、GMP業務を横断的にシステム化するプロジェクトが始動した。
導入
プロジェクトは2023年後半から開始され、デジタル・IT統括部と品質保証部が連携してスピーディーに進められた。デジタル・IT統括部 ビジネスデータマネジメント課 グループリーダーの尾澤 侑治 氏は「GxP(製造管理や品質管理の法規制やガイドライン)対応が必要な業務を、BPMS(ビジネスプロセス・マネジメント・システム)の概念に基づいてシステム化するという前提条件のもと製品を選定した」と語る。
複数の製品を比較検討した結果、大鵬薬品が採用したのがintra-mart Accel Platform(iAP)と、iAP上で利用可能なBPMツールであるIM-BPMだ。それぞれ「全社的なシステム連携やバリデーションがしやすいこと」、「国際標準のビジネスプロセスモデリング表記法であるBPMNで業務プロセスをデジタル化できること」が評価につながったという。そして採用の決め手となったのが、運用環境の選択性と、コストバランスだった。
「GxP要件の対象となる業務システムでは、SaaS型サービスだと仕様変更やサービス内容の変更を自社で管理・把握しづらい。今回のようなデータ統合環境は自社の統制下で変更管理やバリデーションを行える構成が望ましかった。そのため、自社である程度コントロール可能なリソース上でシステムを構築・運用でき、自社管理がしやすい製品を選びたかった。また、iAPはアプリケーションサーバーのCPU課金というライセンス体系や開発における費用面でも他製品と比べて優位性があった」(尾澤氏)
導入とシステム開発は、intra-martのパートナー企業である株式会社日本テクノ開発が支援。基盤の整備、アプリケーション開発・テストが約4カ月という短期間のうちに進行した。プロジェクトをスムーズに進めることができた大きな要因は、要件定義段階で合意した内容の徹底的なドキュメント化であった。小山氏は「事前の調整内容を明文化しておいたことで、手戻りなくプロジェクトを進めることができた」と振り返る。
また、システム化と同時に業務プロセスの精査と最適化を進めたことも、プロジェクト成功の鍵となった。「システムの要件を詰める際、単に従来のプロセスをそのままデジタル化するのではなく、プロセスの棚卸と精査を行った。それまでの手順から本当に必要な作業だけを抽出し、暗黙知となっていたプロセスを誰にでも分かるように言語化する作業には苦労した。また、ワークフローを差し戻した場合の『戻りプロセス』についても、従来のシステムでは振り出しに戻ることが多かったが、今回は却下時にどの段階へ戻すべきかを細かく検証してパターンを網羅した。こうして最適化したプロセスを実際の運用に耐え得る形でシステム化できたのは大きな成果だ」(小山氏)
効果
完成した新システムは、現在、北島工場において製造、品質試験、品質保証、設備、ITの5部署が利用し、製品品質照査と出荷判定の業務に利用されている。品質保証部 北島PQA課 担当課長の村田 聡史 氏は「多くのユーザーがマニュアルをほとんど見ることなく直感的に使えるシステムに仕上がっている。データの収集やまとめ作業が自動化されたことが大きく貢献し、出荷判定で74%、製品品質照査で78%の業務時間削減効果が確認できた。年間の稼働時間に換算すると数千分単位の大幅な時間短縮だ」と語る。
システム導入の効果は、業務時間の短縮にとどまらない。「アナログ作業でデータを収集し、紙媒体にまとめる作業が不要になったため、作業ミスそのものはもちろん、ミスを排除するための膨大な確認作業もなくなった」(村田氏)。また、システムから情報共有用メールも自動発信されるようになり、情報伝達の効率化も進んでいるほか、ユーザー部門が自身でマスタ登録・更新を行えるようにしたことも、運用のしやすさという観点から社内で評価されているという。

未来
大鵬薬品はこの新システム活用の次のステップとして、徳島工場や埼玉工場などの別拠点、そして社内の他システムへの展開を見据え、既に動き出している。製品品質照査や出荷判定だけでなく、査察時の情報提示などでの活用や、汎用的なワークフローシステムとしての運用も視野に入れているという。
また、将来的なテクノロジーの進化、特にAIエージェントの活用が本格化するであろう未来におけるintra-mart製品の役割にも大きな期待を寄せている。「業務の主体や接点は今後、人間、AIエージェント、システムなどが混在してさまざまなパターンが発生すると想定する。AIを含めた業務プロセスをBPMS側で管理するのか、AIエージェント側の管理プラットフォームに集約すべきかは明確な答えを出せていないが、おそらく両方を包含する仕組みが必要になってくる。intra-martには、こうした視点を持ったサポートやソリューションの提供を期待している」(尾澤氏)
製薬会社の規制対応は業界内他社においても共通する部分が多い。今回の新システム構築を契機に日本テクノ開発が構想する、製薬業界向けシステムのパッケージ製品の開発にも大鵬薬品は助力しようと考えている。尾澤氏は「個社ごとに高額な費用をかけて一からシステム構築をしていくのではなく、業界全体にとって有益なエコシステムを形成できる未来へ貢献できればと考えている」と力を込めて語った。

当社は、製薬業界を中心にGxP領域向けシステム構築およびCSV対応支援に長年取り組んでおります。
本プロジェクトでは、intra-mart IM-BPMを基盤に各種規制要件とデータインテグリティ確保を踏まえた設計・実装により、GxP対応BPMS基盤の構築を実現できたと自負しております。
今後も、大鵬薬品工業様への継続的なご支援に加え、本プロジェクトで培った知見を横展開する形でNTTデータ イントラマート様と協力し、他の製薬企業様へのBPMSソリューションの提案・導入にも取り組んでまいります。
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