導入事例
1889年に創業、多種多様な商品・サービスを提供する商社の兼松株式会社(以下、兼松)。
同社は以前、毎年1万件にも及ぶ申請が、紙面と捺印によって回覧され決裁されていた。また、経営層の会議体においてもPDF化した紙の申請書をPCで見ながら討議するなど、紙ベースの業務が効率の妨げとなっていた。この状況を変えるべく、紙による決裁申請書の電子化を決断。システム名を「HI-MAWARI(ヒマワリ)」と名付け、プラットフォームに「intra-mart®」を採用、同製品の標準開発機能を活用して決裁申請のペーパーレス化に取り組んだ。プロジェクトの最中にコロナ禍への対応から、当初の予定より5カ月もの前倒しを求められたが、実装目標の組み換えとプロジェクトマネジメントにより見事に対応。社内決裁手続きの起案から経営層の会議体までを完全デジタル化し、紙文書ゼロを実現している。
課題
兼松では、事業部が非常に多岐にわたっており、伝統的な貿易、投資、開発、多種多様な案件を抱えている。これらの案件のリスクを正確に把握するため、経理、財務、審査、法務、運輸、ITといった専門スタッフ部門が存在している。
「当社には創業以来130年の歴史の中で蓄積されたビジネスノウハウがありますが、その歴史から社内規程も複雑さを抱えており、案件によって、それら各部門を経由した複雑な決裁ルートになっています。中でも、重要な案件は経営会議で決裁しますが、そうした案件は添付資料も多くなります。また、関連部門がそれぞれコピーをとり、さらには経営会議の直前に資料の差し替えが発生するケースもよくあるなど、煩雑な業務になっていました」とIT企画部 部長の寺崎 誠司 氏は説明する。
電子化以前、兼松は投資案件や物品調達などに関する「決裁申請書」を原則紙の書類とし、年間で1万件近く作成していた。それに関係して毎年約14万枚の書類が生まれていた。しかも、決裁申請書を次々に関係者に回す「スタンプラリー」によって、決裁に多くの時間が掛かっていたのである。
こうした課題を解決すべく、経営トップが意思決定迅速化に向けた取り組みに強い意志を示したことから、決裁電子化プロジェクトがスタート。2019年10月よりIT企画部がプロジェクトを立ち上げのための仕様検討を開始した。
プロジェクトでは、決裁申請システムを「HI-MAWARI(ヒマワリ)」と命名。HIは(高速)、MAWARIは(回覧、回ること)、すなわち決裁申請が高速で回覧されることをイメージし、ネーミングした。HI-MAWARIには、決裁申請を作成して、承認ルートで回覧させる「決裁申請ワークフローシステム」の部分と、会議体のアジェンダや案件の内容をモバイルデバイスから確認できるようにするサブモジュール「電子会議システム(HI-Meetings)」で構成されている。
導入
兼松では、2020年春までにベンダー選定を進めて、協力会社にはウルシステムズ株式会社と株式会社DTSを選び、プラットフォームに「intra-mart」を採用することを決定した。
「HI-MAWARIシステムによるプロジェクトは、現在の権限規程が制定されてから約50年間続いてきた決裁申請の仕組みにメスを入れるということもあり、リリースまでにいくつもの障壁がありました」とIT企画部第二課 課長 寺内容子 氏は振り返る。
IT企画部がまず、取り組んだのが決裁申請手続きのスリム化である。
「今の業務を、どうシステム化するかではなく、元となる決裁関連業務のスリム化を目指して、2つのアプローチを行いました。1つは、決裁申請業務のルールである職務権限規程のスリム化、もう1つは、ユーザーストーリーマッピング(USM)手法を活用した、システムの観点からのスリム化です。この2つのアプローチで業務をスリム化した結果、3000パターンあった申請ルートを、600パターンにまで削減することに成功しました」とIT企画部 田中 雄大氏。
社内の決裁ワークフローの洗い出しでは、権限委譲が細分化しているケースや、明文化されていないルール、細かな例外処理などが次々に見つかった。IT企画部では、この機会に業務改善につなげるため、大胆に絞り込みをおこなった。決裁申請の主担当である企画部門の協力を得て、決裁ルートの見直しや、案件の社内開示レベルを5段階から3段階に簡素化した。
また、USM手法で決裁業務のはじまりから終わりまでのストーリーを具体化。システムに実装する機能のプライオリティを明確化したことで要件が単純化され、申請パターンを1/5にスリム化した。
効果
しかし、プロジェクトへの取り組みが進む一方で、コロナ禍という新たな問題が影響してきた。2020年4月の緊急事態宣言ごろにはテレワーク移行を余儀なくされ、紙ベースで行っていた決裁業務に支障が出始めたのである。
「この期間、原則出社停止となったことから、それまでの紙運用での決裁業務が立ち行かなくなり、決裁申請書の電子化が待ったなしになりました」と寺崎部長は振り返る。
暫定的に、それまで使っていたワークフローシステムとクラウドストレージ「Box」を組み合わせた決裁システムを数日間で開発。書式を変えずにワークフローに添付できる仕組みをつくったものの、捺印書式を温存せざるを得なかったために業務に余計な手間がかかっていたという。そこで、稼働予定では約1年先の2021年4月となっていたHI-MAWARIの全社リリースを5カ月前倒しするよう方針を変更し、11月のシステムリリースへと大幅なスケジュールの見直しを行った。
HI-MAWARIは、intra-martのワークフロー技術にアドオンし、カスタマイズする形で開発している。このHI-MAWARIの開発期間を大幅に短縮するため、兼松では2つの施策を実施した。
1つ目の策である工期の分割では、決裁ワークフローシステムのみ2020年11月に前倒してリリースし、電子会議システムは2021年4月とする2フェーズ開発へと切り替えた。もう1つの策である開発機能の縮小では、例えば、個別フォームと呼ばれる案件種別毎のフォームを、原則、1つの全社一律フォーマットに集約した。
「従来、申請業務は案件の内容に応じて独自のフォーマットで運用している状態でした。もし、そのまま全種類をシステム上に構築すると、約1億円のコストがかかる試算でしたので、フォーマットの統一は工期、コストの縮小に寄与しました」(田中氏)
2つの方法と合わせてintra-martのローコード開発という特長を活かしたことで、期限内のリリースを実現。早い段階で業務のリモート対応を完了させた。
第2フェーズとした役員向けの電子会議システムでは、電子会議システムHI-Meetingsの機能を用いて、全役員に配布したiPadでニュースアプリのようなUIでペーパーレス会議を実現した。作成した画面はPCやスマホ、タブレットなどマルチデバイスで動作する。「IM-BIS(Business Integration Suite)」を活用し、もちろんワークフローとの連携もできる。経営会議のデジタル化にあたっては、スムーズな移行を目的に事前準備に注力。デジタルでの運用を確認する疑似経営会議を企画部と合同で実施し、加えて、IT企画部が役員全員を個別に訪問し、変更後の運用の案内をした。これによりアジェンダの作成から、資料の差し替えまで、全てを画面上で完結できるようになり、従来の出席者全員分のコピーを作成するなど、会議の準備を担当する事務局の負荷を大幅に改善している。
「プロジェクトは、コロナの影響でリモート会議を余儀なくされた状況下であったため、それを逆手にとり、対面会議の移動に充てるはずであった時間を活用しセッションを増枠しました。また、オンライン会議で認識齟齬が起きないよう要点をまとめたドキュメントを整備しました。また、Box、Microsoft Teams、Backlogなどのオンラインサービスも活用したことで、フルリモートの開発を滞りなく進めることができました」(田中氏)
Boxのファイル共有機能とintra-martのワークフロー機能の連携で、セキュアな環境でのファイル共有および業務プロセスの連携が可能となった。電子化後は申請済みの決裁申請書は自動的にBoxに保管されるため、オフィス内の保管スペースも削減した。決裁の電子化およびペーパーレス化で、テレワークでも働きやすい環境が整備され、「これまで発生していた年間14万枚の書類が削減できた」(田中氏)という。。
未来
兼松では、今回の紙ベース決裁の電子システム化は、あくまでDXの取り組みにおける「種まき」に過ぎず、目標は「DXの果実の収穫」にあるという。
「そのためにも、蓄積したデータから得られた知見を、どのように業務に活かしていくかに掛かっています。例えば、決裁ルート、審議日数、件数分析、案件内容の自然言語分析などを活用して業務に反映させ、さらに経路品質の向上をはじめ、自社の変革と経営の高度化に貢献していきたいと考えています」と寺崎部長は抱負を語る。
当社は、2004年よりintra-martビジネスを開始し、ワークフローはもちろん、ERPフロントシステムの開発、稟議申請、経費精算などを100社以上のお客様に導入して参りました。
今回、兼松様とは初めてのプロジェクトとなりましたが、コロナ禍に開始したということもあり、コミュニケーション不足による認識齟齬を防ぐため、インクリメンタル型開発を採用し、設計からテストを繰り返す中で認識を合わせながらプロジェクトを推進いたしました。
兼松様のご協力もあり、課題であった「紙文書の削減」、「業務効率化」を実現し、現在グループ会社様への展開を進めております。今後も新機能の活用、他のグループ各社様への展開など、ご支援をさせていただきたいと考えております。
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