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【特別対談】 プロセスマイニング最前線から見える 「解決すべき課題」と「進化の方向性」

プロセスマイニング最前線から見える 「解決すべき課題」と「進化の方向性」

【対談】独アーヘン工科大学アールスト博士 × NTTデータイントラマート中山社長

日本企業は地道なカイゼンを重ねることで業務を効率化してきたし、昨今ではRPAの導入も盛んで現場の生産性アップに不断の努力を続けている。しかし、それらは個別最適の域を出ない取り組みがほとんどである。今こそ、多くの企業に求められるのは、すべての組織を横断したプロセスの全体最適であり、それを支えるものとしてにわかに注目を集めているのがプロセスマイニングだ。プロセスマイニングの概念を20年前に発表し、それから常に第一人者としてその研究を牽引してきたドイツ アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)のウィル・ファン・デル・アールスト(Wil van der Aalst)博士と、NTTデータイントラマート 代表取締役社長の中山義人氏が、プロセスマイニングの“過去・現在・未来”を語り合った。

ウィル・ファン・デル・アールスト 博士

ウィル・ファン・デル・アールスト 博士
(Wil van der Aalst)

オランダ・エールセル出身のコンピューターサイエンティスト。現在、ドイツ アーヘン工科大学(RWTH Aachen University)の教授としてProcess and Data Science(PADS)グループを率いている。研究分野はプロセスマイニング、ビジネスプロセス管理(BPM)、ワークフロー管理、プロセスモデリング、プロセス分析、ペトリネットなど広範にわたる。プロセスマイニングに関しては、1990年代後半よりオランダ アイントホーフェン工科大学で研究を始め、以降、第一人者として同分野を牽引。

20年を経てプロセスマイニングの ブームが到来

中山氏 プロセスマイニングがここに来て世界的に大きなブームとなっています。ただ、アールスト博士がプロセスマイニングを提唱したのは20年も前のことです。これまで認知が広がらなかった背景をどのように見ておられますか。

アールスト氏 プロセスマイニングの話をすると、多くの方が「なぜこんな重要なことに今まで気づかなかっただろうか」という反応を示します。つまり、現在まで普及が進まなかったのは、おそらく「知らなかった」という単純な理由だと思います。実際、アカデミックの世界ではプロセスマイニングはずっと注目され続けてきました。例えばBPM関連の学会で発表されている論文の約半分はプロセスマイニングに関するものになっています。

裏を返せば、日本においてプロセスマイニングがあまり普及してこなかったのは、そうしたアカデミック領域での立ち遅れも原因の1つかもしれません。日本は製造業を中心にカイゼンやカンバン方式など、世界でも有名なコンセプトを確立してきた国であり、本来であればプロセスマイニングはカイゼンツールとしてもっと注目されているはずですので。

中山氏 その意味でも現在の状況には目を見張るものがあります。

アールスト氏 この20年を経て、プロセスマイニングはすでに成熟したレベルに到達しつつあります。国際カンファレンスも開かれるようになり、プロセスマイニングのソフトウェアを扱うベンダーも30社以上に増えました。

 

プロセスマイニングで直面する課題とは

中山氏 市場の盛り上がりは私も強く実感しており、NTTデータイントラマートにもプロセスマイニングに関する問い合わせが急増しています。一方で、実際にプロセスマイニングを導入しようとして、さまざまな困難に直面するケースも少なくありません。

アールスト氏 課題は大きく3つあります。1つは人材の問題で、プロセスマイニングをボトムアップで始めたところ、一定の階層に上がったところで停滞してしまうことがあります。コンプライアンスや非効率な業務プロセスといった今まで見えなかった問題点が一気に表面化し、中間層のマネージャーが恐れをなして止めてしまうのです。この人材という側面を慎重に取り扱っていかないと、プロセスマイニングの導入は上手くいきません。トレーニングはもちろん、経営幹部が取り組みをしっかりサポートしているかどうかも非常に重要です。

2つめの問題はデータです。プロセスマイニングを行っている途中で、インプットとなるログデータの品質を担保したり、ログデータが存在する場所を特定したりするのが難しいといった問題が出てくるのです。あるいは、イベントログデータは十分な量があったとしても、これを抽出することにも相当な知識と労力が必要で、そこがネックとなっています。

3つめとして、プロセスマイニングを単一のプロジェクトとして臨んでしまうのも大きな問題です。予想以上に長い時間がかかり苦労の連続で、これは無理という結論に達してしまうのです。プロセスマイニングは継続的に取り組まなくては意味がなく、それによってこそ社内に埋もれているログデータを効果的に活用し、ROIを高めることができます。

中山氏 挙げていただいた3つの課題が背景となっているのか、日本でもプロセスマイニングを推進するにあたり、DX推進組織やIT部門内に専門チームを設置する企業も増えてきました。

アールスト氏 プロセスマイニングは特別な部門が担うものではなく、長期的には組織全体に組み込まれた活動になっていくと考えています。しかし短期的には、やはりグローバルでもプロセスマイニングに特化したコンピテンスセンターを設置し、取り組みをスタートさせる企業が多い傾向にありますね。プロセスマイニングはビジネス側とIT側の双方のメンバーをつなぐものでもあります。したがってIT部門の中に置いて孤立させるのではなく、ビジネスとITのそれぞれの専門性をもった人材を融合し、チームを編成するべきだと思います。

プロセスマイニングで直面する課題とは

 

個別最適のカイゼンから全体最適のプロセス変革へ

中山氏 私は日本のプロセスマイニングの導入には、実はもう1つ問題があると思っています。先ほど博士におっしゃっていただいたように、日本企業においてカイゼンは広く定着しています。ただ、その取り組みは非常に狭い範囲に限られます。例えば作業机のレイアウトを変える、部材の置き場を変えてみるなど、個人でやれる範囲の工夫にとどまっています。業務プロセスは前後の部門とつながることで最終的に顧客に価値を生むものであるにもかかわらず、部門をまたいだカイゼンについては遠慮もあって口を出すことをためらい、なかなか全体最適につながりません。日本企業の間でRPAがヒットしていますが、これでは個別最適を繰り返すだけであり、従来のカイゼンの範疇であるといって過言ではありません。現状業務をそのまま維持しながらの自動化ではなく、顧客に本当の価値を生む全体最適のプロセス変革へとカイゼンのレベルを変えていきたいのです。

アールスト氏 カイゼンもRPAも、小規模な個別最適の活動に限定されてしまっていることについて、私も中山さんと同じ意見です。一方でプロセスマイニングは、顧客接点からバックオフィス業務まで、エンドツーエンドのプロセス全体を検証する力を持っています。その意味でもプロセスマイニングは、企業文化の変革に大きく貢献できると思います。

中山氏 そうした中でプロセスマイニングにはどのような進化の方向性がありますか。

アールスト氏 今後の方向性は1つではなく、多岐にわたると考えています。各種ツールが提供している機能もまだまだ十分とは言えず、さらなる改善が必要です。例えばプロセスの「ディスカバリー」に注目しても、現在提供されている機能の多くは単にグラフ表示をサポートしているだけです。これでは質の高いBPMモデルを作ることができません。今後さらにディスカバリーが進化していくことで、BPMモデリングとプロセスマイニングのインテグレーションがより容易になっていくと思います。

また、異なる組織や異なる期間を横断的に比較するプロセスマイニング、将来予測を行うプロセスマイニング、さまざまなトリガーによって自動的にBPMのアクションを起こすプロセスマイニングなどもトピックに挙がっています。

 

今あるデータとシンプルな指標で効果を発揮できる

中山氏 加えて私が個人的にも大きく期待しているのが、博士が著書「プロセスマイニング」の中で示された「オペレーショナルサポート」の概念です。機械学習を活用した予測機能を取り入れるなど、さまざまなビジネスのオペレーション現場でその活動がより効率的になるようにリアルタイムでガイダンスしていくという方向でのエンハンスを提唱されています。これは企業の生産性向上にとって本当に夢のある話だと感銘を受けました。今後の実現性をどのようにお考えでしょうか。

アールスト氏 ありがとうございます。ただ、プロセスマイニングのゴールはあくまでもプロセスを改善することにあり、決して機械学習を利用することが必須ではないことも、念のために強調しておきたいと思います。

今あるデータとシンプルな指標で効果を発揮できる

例えばある人がスーパーマーケットに行き、買い物を終えるまでにどれくらい時間がかかるのかを予測するケースで考えてみます。そのスーパーマーケットにはどれくらいの品数が揃っているのか、その人はどういった商品を好むのかといった複雑なデータを大量に機械学習エンジンに投入して分析したところで、期待したような正確な予測結果が示されるとは思えません。より最適な方法は、そのスーパーマーケットから出てくる多くの買い物客に、「何分くらいかかりましたか」とヒアリングしたデータを集めることです。オペレーショナルサポートでも、こうしたシンプルな指標が一番効果を発揮します。

中山氏 最終的にどんな解決策を求めているのかによって、利用すべきデータはその都度違ってくるという理解でよいですか。

アールスト氏 その通りです。したがってプロセスを予測したいなら、まずはそのプロセス自体の特徴をしっかり把握することが重要です。機械学習が有益なツールとなるのは間違いありませんが、力ずくで機械学習を使うだけでは上手くいきません。使えるデータが少ない場合は、熟練者がもつ経験則や知識など人間の持つノウハウも活用することが重要です。

中山氏 オペレーショナルサポートといえども必ずしも高度なテクノロジーを駆使しなければならないわけではなく、今あるデータの中で本当に必要なものを見極めていけば、もっと簡単な方法で目標に到達することも可能なのですね。プロセスマイニングに向かおうとする多くの日本企業にとって、非常に重要なアドバイスとなりそうです。今日は示唆に富んだお話をありがとうございました。

中山氏とアールスト氏

 

※本記事は、2019年10月にIT Leaders(インプレス)で掲載された記事です。

 

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