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COCOAの教訓を未来にどう生かす?デジタル庁と厚労省が取り組みを総括し報告書を公表

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COCOAの教訓を未来にどう生かす?デジタル庁と厚労省が取り組みを総括し報告書を公表

昨年11月に機能停止した「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)」。新型コロナ禍初期の2020年から昨年まで、多くの方が自身のスマートフォンにインストールして利用されたのではないでしょうか。今回のパンデミックのような社会的影響が大きい課題にデジタルテクノロジーを活用して対応するという点で、新たなチャレンジだったことは間違いないわけですが、一方でAndroid端末に接触通知が届かない不具合が4カ月も放置されていたことが発覚するなど、課題も散見されました。

デジタル庁と厚労省は2月、COCOAの取り組みを総括した報告書を取りまとめ、公表しました。コロナ禍のフェーズが変わり、その役目を終えたCOCOAですが、報告書の内容を基に、その取り組みの経緯を改めて振り返ってみましょう。企業におけるデジタル活用やDXの参考になる部分もあるはずです。

 

スピーディーな対応を目指すも体制は不十分

COCOAについて改めておさらいすると、新型コロナウイルス感染症陽性者と1メートル以内で15分以上接触した可能性がある人に通知を送るアプリです。利用者本人の同意を前提に、スマートフォンのBluetooth機能を使って接触を検知。電話番号や位置情報など個人が特定される情報は記録せず、プライバシーへの配慮を徹底した点も特徴でした。

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COCOAの基本的な仕組み(出典:厚生労働省)


新型コロナウイルスのパンデミック初期にあたる2020年4月に、内閣官房に設置された「新型コロナウイルス感染症対策テックチーム」(以下、テックチーム)が検討を開始し、開発・実装の方針を決定。実際の開発・保守運用は厚生労働省が担当するかたちでスタートし、6月にはCOCOA1.0.0版をリリースしました。運用しながら継続的な改善を行うアジャイル開発の手法を取り入れ、デザイン・機能は適宜修正していく方針を当初から明確にしていました。

省庁間の役割分担には、スマートフォンの2大OSを提供するベンダーの方針が影響しました。iOSを提供する米アップルとAndroidを提供する米グーグルは、濃厚接触の可能性を検出する技術で協力する意向を示し、iOS、Androidの接触通知APIをリリース。各国の公衆衛生機関が提供するアプリにのみ利用を許可する方針を公表しました。そのため、日本では厚労省がCOCOAの開発・運用主体となりました。

ただし、厚労省は新型コロナ感染症対策全般への対応で忙殺されていたこともあり、報告書では「十分な開発・運用体制を確保することができなかった」と振り返っています。また、内閣官房のテックチームは技術の専門家や技術を提供する立場のメンバーを中心に構成され、COCOAの開発・提供を決定する過程で、感染症対策の専門家や感染症法に基づく対策の実務に詳しい者の関与が薄かった点も指摘。「当時のコロナ対策全般の方針の中での接触確認アプリの位置づけや、保健所が行う積極的疫学調査などの実務との関係性が十分に議論されたとは言い難い」としています。

未曾有のパンデミックに直面し、早期にこうしたアプリをリリースすべきだという社会的な要請が非常に大きく、スピード感が重視されるべき局面だった点には留意が必要でしょう。システムに不具合は付き物であり、不具合の可能性を織り込んだ上で、アジャイル型の開発で継続的な改善を施していくという判断も合理的だったと言っていいのではないでしょうか。ただし、体制整備が不十分だったことで、「運用開始後の様々な指摘やフィードバックに迅速に対応することができなかった」という課題が、不具合の長期間にわたる放置というかたちで顕在化します。


厚労省とIT室(デジタル庁)の連携で安定運用へ

2021年2月、Android版のCOCOA1.1.4(2020年9月28日リリース)で、接触通知が受け取れない不具合が4カ月にわたってそのままになっていたことが明らかになりました。厚労省が21年4月に公表した検証報告書では、具体的な要因として次のような指摘をしています。

・リリース前のテストのための環境が早期に整備されず、テスト環境が整備された後も適切なテストが実施されなかった
・GitHub等の外部の指摘を適時・適切に把握する体制が整っていなかった
・厚労省においてシステム関連事業の知識や経験が豊富な人材が不足していた
・厚労省と事業者、また事業者間での責任や役割分担が不明確であった面もあった

厚労省としては可能な限りの対応を行い、改修や機能のアップデートも随時行っていたというものの、今回の報告書でも、「アプリを開発・運用するために望ましいあり方から見れば対応が不十分だったと言わざるを得ない状況」だったと指摘しています。その結果として、重要な修正が漏れてしまったことがうかがえます。

これを受け、21年2月からは厚労省と内閣官房情報通信技術(IT)総合戦略室(以下、IT室)が連携してCOCOAの安定的な運用に取り組む体制に移行。IT室がシステムの運用・保守や仕様に関する技術的な部分を担い、厚労省は新型コロナ対策や公衆衛生対策全般におけるCOCOAの位置付けや活用などに関する部分を担当することになりました。

以降、新たな体制の下で、不具合の放置に関する再発防止の取り組みはもちろんのこと、安定的な運用を目指して、接触通知APIのバージョンアップ対応での内製化推進やオープンソースコミュニティとの連携などを進めました。そして22年9月、医療機関から保健所に提出される新型コロナ感染症発生届の対象者が健康リスクの高い人に限定されたこと(全数届出見直し)により、HER-SYSへの陽性者情報登録が前提となっていたCOCOAの接触通知機能の効果は限定的になり、同年11月に機能停止、23年3月に通知サーバーの運用を停止してシステム全体の運用を停止したという流れです。

なお、21年9月にはIT室の役割を吸収するかたちでデジタル庁が発足しており、COCOAにおける役割もデジタル庁が引き継いでいます。

行動変容を促す効果があったことを確認

提供期間中、課題や批判はあったものの、結果的にCOCOAの利用実績はかなりの規模になりました。今回の報告書では、機能停止のための最終アップデート版リリースの前日(11月16日)までで、ダウンロード件数は4128万7054件、陽性登録件数は369万4068件だったとしています。

また、最終アップデート版では接触通知回数を把握するための調査を行い、約303万件の回答を得たとのこと。22年4月から11月の間に接触通知を受け取った利用者の割合は26.5%と推定され、年代別では20代が高く、年代が上がるにつれて通知を受け取った割合が低下することや、公共交通機関を利用した通勤・通学者は通知を受け取った割合が高いことなどを明らかにしています。

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通知発生回数別回答者数の割合 全体、年代別、通勤・通学の有無別(出典:デジタル庁)


さらに報告書では利用者アンケートの結果なども整理し、新型コロナウイルス感染が急拡大した22年4月〜9月の期間中、接触通知を受けた人のうち7割以上が他人との接触を避ける行動をとったとの結果を紹介。COCOAに感染拡大を抑止するための行動変容を促す効果があったと結論付けています。

企業のDX推進の参考にも

報告書では課題と成果を整理した上で、COCOAの取り組みを将来に生かすために「感染症対応に新たなデジタル技術の活用を検討する際に留意すべき事項」「平時から準備しておくべき事項」もまとめています。例えば前者については、次のような指摘があります。

「検討初期段階からデジタル技術の専門家と感染症対策の専門家、実務担当者が密にコミュニケーションをとり、(中略)ツールにより実現を目指す状態(目的)、実現のための具体的な手法、実現状況の評価方法とツール活用のマイルストーンについて速やかに合意する必要がある」

「感染症対策に新たなデジタル技術を利用する場合、その評価方法が定まっていないことや、効果を測定する手段がないことが想定される。システムにはあらかじめ評価や効果を測定するための仕組みを組み込み、システム外でも評価・効果の測定を行うことによって、システム自体も不断に改善し続けるPDCAサイクルを意識した設計としていく必要がある」

こうした視点は、企業における新規事業開発やデジタルテクノロジーを活用したビジネス変革、DXの取り組みなどでも有効だと言えるでしょう。また、平時から準備しておくべきこととしては「方針変更や要望への速やかな対応が可能な開発・運用体制」の重要性などを説いており、これも同様です。

COCOAの検討開始から停止までの経緯を丁寧にまとめるとともに、課題や利用状況についてもさまざまな角度から調査・分析したデジタル庁と厚労省の報告書。DXの取り組みに関わる人にとっても、新たな気づきが得られる可能性があります。興味のある方はぜひ目を通してみてください。



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