SAP 2027年問題の本質とは?移行で直面する壁と「業務を止めない」現実的な解決策を解説

この記事を読んでわかること
- SAP 2027年問題の概要と、保守終了に伴う基本リスク
- SAP移行で直面しやすいアドオン・コスト・業務標準化の課題
- 業務を止めずに段階的なシステム刷新を進めるためのポイント
SAP ERP 6.0を含むSAP Business Suite 7のメインストリームメンテナンス終了を背景に、多くの企業が基幹システムの移行や刷新を迫られています。いわゆる「SAP 2027年問題」は、単にSAP S/4HANAへ移行すれば解決するものではありません。
長年運用してきたSAP環境では、独自アドオンの肥大化、業務プロセスの複雑化、周辺システムとの連携、移行コストの増大、IT人材不足など、さまざまな課題が表面化します。現行システムをそのまま移行しようとすると、プロジェクトが大規模化し、現場業務への影響も大きくなるおそれがあります。
そのため、2027年問題への対応では、現行業務やアドオン資産を棚卸しし、標準化すべき業務と独自性を残す業務を切り分けることが重要です。SAP本体を標準に保ちながら、独自業務や周辺業務を外部基盤に切り出す考え方も有効な選択肢になります。
本記事では、SAP 2027年問題の本質や移行で直面する壁、主な対応策、業務を止めずに段階的なシステム刷新を進めるためのポイントを解説します。SAP移行やレガシーシステム刷新を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

SAPの2027年問題とは?
SAPの2027年問題とは、多くの企業で利用されてきたSAP ERP 6.0を含むSAP Business Suite 7のメインストリームメンテナンスが、2027年末に終了予定であることをきっかけに発生する課題です。SAPはオプションの延長保守を2030年末まで提供するとしています。また、大規模で複雑なSAP ERP環境を持つ顧客向けには、2031〜2033年の移行期間を支援する限定的な選択肢も案内されています。ただし、いずれの場合も次の基幹システムへの移行や刷新を検討する必要があります。
つまり、2027年問題は「2027年になったらすぐにSAPが使えなくなる」という単純な話ではありません。問題の本質は、長年利用してきた基幹システムをどのように見直し、今後の事業や業務に耐えられるIT基盤へ移行するかにあります。
SAP ERP 6.0は、会計、販売、購買、生産、在庫、人事など、企業の中核業務を支えてきたシステムです。そのため、移行や刷新の影響範囲は非常に広く、単なるシステム更改として進めると、業務停止や現場混乱につながるおそれがあります。
SAP ERP 6.0のサポート終了に伴う基本リスク
メインストリームメンテナンスが終了すると、標準保守の範囲で提供されていた不具合修正、法制度対応、セキュリティ関連の更新などを受けにくくなります。基幹システムは日々の取引や会計処理を支えるため、保守切れの状態で使い続けることには、セキュリティやコンプライアンス上のリスクがあります。
特に、会計・税務・取引関連のシステムでは、法改正や制度変更への対応が欠かせません。保守終了後も現行システムを使い続ける場合、必要な対応を自社や外部ベンダーで個別に行う必要があり、運用負荷やコストが増える可能性があります。
また、OSやデータベース、周辺システムとの互換性にも注意が必要です。SAP本体だけでなく、連携するシステムやインフラも古くなっている場合、障害時の対応やセキュリティ対策が難しくなることがあります。
バージョンアップではない「根本的な見直し」が必要な理由
SAP 2027年問題が難しいのは、単なるバージョンアップでは済まないケースが多い点です。SAP ERP 6.0からSAP S/4HANAへ移行する場合、データ構造や業務プロセス、アドオン、周辺システムとの連携を見直す必要があります。
長年使い続けてきたSAP環境では、自社独自の業務に合わせたアドオン開発や個別カスタマイズが積み重なっていることが少なくありません。これらをそのまま新環境に持ち込もうとすると、移行コストが膨らみ、標準機能を活かしにくくなる可能性があります。
そのため、2027年問題への対応では、現行システムをそのまま移すのではなく、どの業務を標準化し、どの独自業務を残すのかを見極めることが重要です。基幹業務、周辺業務、IT基盤全体を含めた見直しが求められます。
2027年問題で直面する3つの壁
SAP 2027年問題への対応では、多くの企業がアドオンの肥大化、移行コスト・人材不足、業務標準化への現場抵抗という3つの壁に直面します。ここでは、3つの壁それぞれについて解説します。
① アドオン(独自開発)の膨大化・ブラックボックス化
1つ目の壁は、アドオンの膨大化とブラックボックス化です。SAP ERP 6.0を長期間利用してきた企業では、現場の要望や商習慣に合わせて、多くの独自機能を追加していることがあります。
当初は業務効率化のために開発されたアドオンでも、時間が経つにつれて、なぜ作られたのか、誰が使っているのか、現在も必要なのかが分かりにくくなる場合があります。担当者の異動や退職によって仕様を把握できる人がいなくなれば、改修や移行時のリスクはさらに高まります。
SAP S/4HANAへの移行では、標準機能に業務を合わせる「Fit to Standard」の考え方が重要になります。しかし、独自アドオンが多いほど標準化は難しくなります。すべてのアドオンを残そうとすると、移行プロジェクトが複雑化し、コストや期間が膨らむ原因になるでしょう。
② 莫大な移行コストとベンダー・IT人材の不足
2つ目の壁は、移行コストと人材不足です。SAPの移行プロジェクトでは、現行調査、アドオン分析、データ移行、業務設計、テスト、教育、周辺システム連携など、多くの工程が発生します。対象範囲が広いほど、必要な工数も大きくなるでしょう。
さらに、2027年に向けて同じタイミングで移行を検討する企業が増えると、SAPに詳しいベンダーやコンサルタント、エンジニアの確保が難しくなる可能性があります。人材不足が進めば、依頼できるパートナーが限られたり、費用が高騰したりするリスクもあります。
社内側の体制も課題です。基幹システムの移行では、情報システム部門だけでなく、経理、販売、購買、生産、物流など各業務部門の協力が欠かせません。通常業務と並行して移行プロジェクトを進める必要があるため、現場の負荷も大きくなります。
③ 業務プロセスの標準化に対する現場の混乱
3つ目の壁は、業務プロセスの標準化に対する現場の混乱です。SAP S/4HANAへの移行では、標準機能を活かし、独自カスタマイズを減らすことが重要になります。しかし、これまで自社独自の手順で業務を進めてきた現場にとっては、「システムに業務を合わせる」ことが大きな負担になる場合があります。
例えば、承認フロー、帳票、入力項目、確認手順などが変われば、現場担当者は新しい業務に慣れる必要があります。標準化の目的やメリットが十分に共有されていないと、業務効率が下がったように感じられたり、現場から抵抗が出たりすることもあるでしょう。
そのため、標準化は一方的に進めるのではなく、現場の業務実態を把握したうえで進めることが重要です。標準化すべき業務と、競争力や業務品質に関わる独自業務を切り分ける必要があります。
2027年問題への主な選択肢とメリット・デメリット
SAP 2027年問題への対応には、主にSAP S/4HANAへの移行、第三者保守・延長保守の利用、他社ERPへのリプレイスや段階的なシステム刷新という選択肢があります。それぞれのメリットとデメリットについて解説します。
SAP S/4HANAへの移行(Fit to Standardの追求)
代表的な選択肢は、SAP S/4HANAへの移行です。SAP S/4HANAは、SAP ERPからの代表的な移行先として位置付けられており、高速処理やリアルタイムなデータ活用、最新機能の利用が期待できます。
メリットは、SAPの標準機能や将来的なアップデートを活用しながら、基幹システムを刷新できる点です。グローバル展開や大規模な基幹業務にSAPを活用している企業では、有力な選択肢になります。
一方で、移行には大きな負荷がかかります。特にアドオンが多い企業では、何を廃止し、何を標準機能に置き換え、何を外部化するのかを慎重に判断しなければなりません。Fit to Standardを追求するほど、業務変更や現場教育も必要になります。
第三者保守・延長保守の利用(時間稼ぎ)
延長保守や第三者保守を利用し、現行システムを一定期間使い続ける方法もあります。すぐに移行が難しい企業にとっては、検討や準備の時間を確保できる点がメリットです。
ただし、これは根本的な解決ではありません。延長保守を利用しても、いずれは移行や刷新の判断が必要になります。古いシステムを使い続ける期間が長くなるほど、周辺システムやインフラとの整合性、セキュリティ、人材確保の面で課題が大きくなる可能性があります。
第三者保守についても、コスト面のメリットがある一方で、SAPの最新機能や標準アップデートを前提とした活用は難しくなります。時間を稼ぐ選択肢としては有効ですが、その間に移行方針やロードマップを固めることが不可欠です。
他社ERPへのリプレイス・段階的なシステム刷新
SAP S/4HANAへ移行するのではなく、他社ERPへリプレイスする選択肢もあります。自社の規模や業務に対してSAPが過剰になっている場合、国産ERPやクラウドERPなどへ切り替えることで、運用負荷やコストを見直せる可能性があります。
一度にすべてを入れ替えるのではなく、周辺業務から段階的に刷新する方法もあります。会計、販売、購買、生産、ワークフロー、帳票、データ連携など、業務領域ごとに優先順位を決めることで、移行リスクを抑えやすくなるでしょう。
ただし、他社ERPへのリプレイスも簡単ではありません。業務要件の再整理、データ移行、既存システムとの連携、現場教育などが必要です。SAPから離れる場合は、これまで蓄積してきた業務資産や運用ノウハウをどのように活かすかも重要になります。
2027年問題を乗り越えるための検討ポイント
2027年問題に対応するには、移行先の製品選定だけでなく、現行業務とシステム資産をどのように整理するかが重要です。ここでは、特に押さえておきたい検討ポイントを紹介します。
現行業務・アドオン資産の徹底的な棚卸し
まず必要なのは、現行業務とアドオン資産の棚卸しです。どの業務でSAPを利用しているのか、どのアドオンが存在するのか、どの周辺システムと連携しているのかを可視化しなければ、移行方針を判断できません。
棚卸しでは、単に機能一覧を作るだけでは不十分です。そのアドオンが現在も使われているのか、標準機能で代替できるのか、業務上どうしても必要なのかを確認する必要があります。使われていない機能や、過去の業務に合わせて作られた機能をそのまま残すと、移行後も複雑な状態が続いてしまいます。
重要なのは、「本当に必要な独自業務」と「標準化すべき業務」を切り分けることです。競争力に直結しない業務は標準化し、独自性が必要な業務は外部基盤や周辺システムで柔軟に対応するなど、役割分担を整理しましょう。
一括移行(ビッグバン)リスクの回避と段階的ロードマップ
SAPの移行や刷新では、一括移行、いわゆるビッグバン方式を採用すると、短期間で大きな変化を実現できる反面、リスクも高くなります。移行対象が広いほど、テスト、教育、データ移行、業務切り替えの負荷が大きくなり、トラブル発生時の影響も拡大します。
そのため、すべてを一度に変えるのではなく、段階的なロードマップを作ることが現実的です。例えば、まずは利用頻度の低いアドオンや周辺業務を整理し、次にワークフローや帳票、データ連携を見直し、最後に基幹部分を移行するといった進め方が考えられます。
段階的に進めることで、現場の負荷を抑えながら、改善効果を確認できます。また、早期に小さな成果を出せれば、社内の理解を得やすくなり、次の刷新にもつなげやすくなるでしょう。
業務を止めない解決策:「既存資産を活かす」システム刷新
2027年問題への対応で重要なのは、現行システムを否定することではなく、既存資産を活かしながら、将来に向けて柔軟な基盤へ刷新していくことです。長年使ってきたSAPや周辺システムには、業務ノウハウやデータ、運用ルールが蓄積されています。それらを無理に捨てるのではなく、活かす部分と見直す部分を整理することが現実的です。
SAPは標準に保ち、独自業務は外部基盤に切り出す(Clean Core)
近年、SAP活用では「Clean Core」という考え方が重要になっています。これは、SAP本体をできるだけ標準に保ち、独自開発や拡張機能をコア部分に過度に持ち込まない考え方です。SAP本体を標準化しておくことで、将来的なアップデートやクラウド活用に対応しやすくなります。
一方で、すべての独自業務をなくせるわけではありません。企業ごとの商習慣、承認ルール、帳票、取引先対応、現場業務には、標準機能だけでは対応しきれない領域があります。そこで、SAP本体は標準機能を中心に保ち、独自業務や周辺業務はSAP BTPや外部の共通基盤などに切り出す方法が考えられます。
例えば、ワークフロー、申請・承認、帳票出力、マスタ連携、部門固有の業務アプリケーションなどは、ローコード開発基盤や業務プロセス基盤で管理する選択肢があります。SAPと外部基盤の役割を分けることで、SAPの標準化と現場業務の柔軟性を両立しやすくなります。
「小さく始めて、大きく変える」段階的モダナイゼーション
SAP 2027年問題への対応では、段階的なモダナイゼーションも有効です。モダナイゼーションとは、既存システムを活かしながら、老朽化した仕組みや複雑化した業務プロセスを段階的に刷新する取り組みです。
最初から基幹システム全体を入れ替えるのではなく、まずは業務負荷が大きい領域や、アドオンが肥大化している領域から見直します。例えば、承認フロー、紙帳票、Excel管理、周辺システム連携などを先に整理すれば、基幹システム移行時の負担を軽減しやすくなります。
この進め方のメリットは、業務を止めずに改善を進めやすい点です。既存SAPを使い続けながら、周辺業務を少しずつ外部基盤へ移し、将来的な移行に備えることができます。現場にとっても、一度に大きな変化を求められるより、段階的に新しい業務へ慣れていけるため、混乱を抑えやすくなります。
また、段階的に刷新することで、どの業務が標準化できるのか、どの業務に独自性が必要なのかを見極めやすくなります。結果として、SAP S/4HANAへの移行、他社ERPへのリプレイス、周辺システムの再構築など、次の選択肢を取りやすくなるでしょう。
まとめ
SAP 2027年問題は、SAP ERP 6.0を含むSAP Business Suite 7のメインストリームメンテナンス終了をきっかけに、多くの企業が基幹システムの見直しを迫られる問題です。ただし、本質は単なる移行期限への対応ではありません。長年積み重なったアドオン、複雑化した業務プロセス、老朽化したIT基盤を見直し、将来に向けた基幹システムへ刷新することが重要です。
対応策には、SAP S/4HANAへの移行、延長保守や第三者保守の利用、他社ERPへのリプレイス、段階的なシステム刷新などがあります。どの選択肢を選ぶ場合でも、現行業務やアドオン資産を棚卸しし、標準化すべき業務と独自性を残す業務を切り分ける必要があります。
特に、業務を止めずに現実的な刷新を進めるには、SAP本体をできるだけ標準に保ち、独自業務や周辺業務を外部基盤に切り出す考え方が有効です。既存のSAPやレガシーシステムを活かしながら、ワークフロー、帳票、データ連携、部門固有の業務アプリケーションを段階的に見直すことで、移行リスクを抑えながらモダナイゼーションを進めやすくなります。
「既存のSAPや周辺システムを活かしながら、業務を止めずに段階的に刷新したい」「アドオンの肥大化やブラックボックス化から脱却したい」と考えている企業は、レガシーシステム刷新や業務プロセスのモダナイゼーションに対応できる基盤を検討してみてはいかがでしょうか。
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