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迫るインボイス制度、DXの基盤づくりを進める絶好のチャンス

迫るインボイス制度、DXの基盤づくりを進める絶好のチャンス

インボイス制度のスタートまで1年を切りました。事業活動に伴う商取引の業務負荷が大きく膨らむ、免税事業者のビジネスの向かい風になるという懸念も指摘される一方、デジタルインボイスの仕組みを整えることで、バックオフィス業務の生産性を大きく上げ、デジタルトランスフォーメーション(DX)の基盤づくりに向けた足掛かりにもなり得ます。自社のビジネスにおけるインボイス制度のインパクトをポジティブなものにするためにも、デジタルインボイスを巡る直近の動きをおさらいしてみましょう。

 

1.インボイス制度とデジタルインボイス

インボイス制度(適格請求書保存方式)は、2019年10月1日の消費税率10%への引き上げと複数税率導入に伴い、消費税の仕入税額控除を適切に行うための制度と位置付けられています。仕入税額控除とは、法人が納める消費税額を計算する際、課税対象となる売り上げの消費税額から課税対象となる仕入れの消費税額を差し引くことです。

現在は、複数税率の導入とともにインボイス制度開始までの暫定的な制度として導入された「区分記載請求書等保存方式」が適用されています。仕入れにあたって、売り手側が発行した請求書(取引内容や取引ごとの金額、軽減税率対象の明記、税率ごとの対価の額など必要事項を記載したもの)を基に消費税額を計算するとともに、エビデンスとして保存することで仕入税額控除を受ける仕組みです。

インボイス制度開始後に仕入税額控除を受けるためには、現在の区分記載請求書にさらに記載項目を追加して要件を満たした適格請求書(インボイス)が必要になります。注意が必要なのは、このインボイスを誰でも発行できるわけではなく、税務署の審査を受けて登録された「適格請求書発行事業者」が発行したインボイスでなければ、仕入税額控除の根拠として認められない点です。

これに伴い、売り手には適格請求書事業者としての登録やインボイスの要件を満たす請求書の準備が求められますし、買い手側の新たな業務負荷も想定されます。受け取ったインボイスが要件を満たしているか、さらには発行者の適格請求書事業者登録番号が正しいかを確認したり、税率ごとの控除額を計算したりといった業務がその一例です。

また、適格請求書事業者としての登録は課税事業者であることが必須条件で、これまで免税事業者として事業を行っている個人事業主などが適格請求書事業者にならないという選択をする可能性もあります。インボイス制度がスタートすると免税事業者からの仕入れは控除の対象外になるので、適格請求書事業者からの仕入れとは別の会計処理が必要になります。
※29年9月末までは経過措置が用意されており、適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れについても一定の割合で控除できますが、控除の割合は段階的に下がっていきます。

いずれにしても、紙の請求書やそれをスキャンしたPDFデータのやり取りなどを前提としたアナログな業務プロセスでは、インボイス制度への対応は負担増になるばかりです。そうした課題感を背景に、商取引から納税までのプロセスにおいて、インボイスが網羅すべき情報を最初から最後までデジタルデータでやり取りする環境をつくろうという動きが、バックオフィス業務向けソフトウェアベンダーなどを中心とした民間業界団体と国の連携の下に進められています。インボイス制度は、標準化・構造化された電子インボイスである「デジタルインボイス」の利活用と普及、さらにはバックオフィス業務全体のデジタル化を推し進める絶好の好機でもあるのです。

2.日本のデジタルインボイス標準仕様ができるまで

デジタル庁は今年10月、日本のデジタルインボイス標準仕様(JP PINT)の正式版「Peppol BIS Standard Invoice JP PINT Version 1.0」を公開しました。名称にも端的に表れていますが、これは「Peppol(Pan European Public Procurement Online)」という国際標準仕様をベースとしたものです。

Peppolは欧州発祥で、インボイスを含むデジタルドキュメントをネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」「運用ルール」「ネットワーク」の仕様を定めています。非営利組織であるOpenPeppolが管理などを担っており、現在、欧州各国のみならず、オーストラリア、ニュージーランドやシンガポールなどの欧州域外の国も含め30カ国以上で利用が進んでいます。

国内でも既に多くのITベンダーがJP PINTに対応する方針を表明しており、JP PINT 1.0の公開を契機に、さまざまなデジタルインボイス関連製品・サービスの市場投入が加速する見込みです。

ここに至る流れも簡単におさらいしましょう。発端は20年夏に遡ります。複数の基幹業務ソフトウェアベンダーが研究会を立ち上げ、「社会的システムのデジタル化による再構築に向けた提言」を発表。インボイス制度の開始にあたっては、「社会的コストの最小化を図るために、当初からデジタルインボイスを前提とし、デジタルで最適化された業務プロセスを構築すべき」と訴えました。

そうした動きを現実のものにするために、20年7月、民間側の業界団体として「電子インボイス推進協議会」(EIPA)が立ち上がりました。国内の事業者が共通で利用できるデジタルインボイス・システムの構築を目指し、デジタルインボイスの標準仕様策定や実証、普及促進に取り組むことが目的です。11月21日現在で、正会員195社、特別会員8団体、個人特別会員8人(税理士など)が参加しています。

EIPAは20年12月、当時の平井卓也デジタル改革担当大臣に、「グローバルな標準仕様であるPeppolをベースとして日本におけるデジタルインボイスの標準仕様を策定すべき」と提言。結果として21年9月に発足したデジタル庁が標準仕様の策定主体を担うことになり、日本におけるPeppolの管理団体としてOpenPeppolにも参加しています。そして標準仕様を活用して具体的なサービスを提供するITベンダーを中心に構成されるEIPAが、民間の立場でこれを支援するという構図が出来上がり、JP PINT正式版の策定・公開に至ったわけです。

従来のPeppol標準仕様は主に欧州向けの色が濃かったため、現在、OpenPeppolはより広く国際的な普及が見込める新たな標準仕様としてPINT(Peppol International model for Billing)を策定しています。デジタル庁がOpenPeppolに参加したことで、PINTの国際標準仕様づくりに日本の意見も反映できるようになり、JP PINTも国際標準との互換性を持つ仕様にになっているのは、グローバルな取り引きにまつわる業務効率化にもポジティブな効果が期待できそうです。

ちなみにEIPAは現在、電子インボイス推進協議会からデジタルインボイス推進協議会に名称を変更しています。前述したように、インボイスに記載されている情報そのものを標準化・構造化されたデータとして誰とでもやり取りできる環境をつくり、バックオフィス業務の自動化や大幅な効率化を進めようというのが、日本のデジタルインボイス標準仕様策定の背景です。これは紙を電子化(Digitization)するための取り組みではなく、デジタル活用を前提に業務のあり方そのものを抜本的に変える(Digitalization)ための取り組みと言えるわけで、その趣旨を改めて団体名に反映させたかたちです。

3.デジタルインボイスがもたらすインパクト

Peppolは「4コーナーモデル」と呼ばれるアーキテクチャーを採用しています。図に示しているとおり、ユーザー(売り手=C1)は自らのアクセスポイント(C2)経由でPeppolネットワークに接続し、買い手のアクセスポイント(C3)にインボイスデータを送信。それが買い手(C4)に届くという仕組みです。これにより、Peppolネットワークに参加する全てのユーザー同士がデジタルインボイスをやり取りすることができるようになるといいます。EIPAはこの仕組みを「メーラーからインターネットプロバイダーを介して相手先に届く電子メールの仕組みに似ている」と説明しています。


Peppolのアーキテクチャー

JP PINTは、売り手のアクセスポイント(C2)と買い手のアクセスポイント(C3)との間でやり取りされるデジタルインボイスの標準仕様です。売り手がJP PINTに対応したアプリケーションを使っていれば、Peppolネットワークを通してインボイスの情報をデジタルデータで受け渡すことができるようになり、買い手側はこれらのデータを自社のシステムに直接取り込むことができるようになります。

結果として、請求から仕訳入力、入金消込、仕入税額控除の計算など、会計・税務に関するバックオフィス業務全体を自動化したり、大幅に効率化したりできる可能性が開けます。また2010年代半ばから、企業の会計データをAIで分析して効率的な与信審査を行う小口の融資サービスが増加しましたが、同様にデジタルインボイスのデータも金融サービスなどに活用することで新たな付加価値創出につながる可能性があるとEIPAは指摘しています。

売り手から買い手にPDFでインボイスを送付するなどの方法では、買い手がインボイスデータを改めて自社のシステムに入力するなどの作業が必要になるケースが多く、効率化や自動化への貢献は非常に限定的です。インボイスの情報をデジタルデータでやり取りする方法とは根本的に性質が異なることは理解しておく必要があるでしょう。


4.まとめ

デジタル庁によれば、Peppolをベースとしたデジタルインボイスを既に採用している国では、「バックオフィス業務の時間を削減し、それを別の業務に充てて生産性向上につなげられた」「Peppol対応のパッケージソフトを使えばいいだけなので、対応コストも安い」「請求から振込処理までのプロセスが自動化され、請求代金の迅速な回収につながっている」といった評価が、特に中小企業を中心に高まっているそうです。

JP PINTをベースにしたデジタルインボイスの活用は、単にインボイス制度に対応するということにとどまらない価値を秘めています。請求にかかわるプロセスのデジタル化により、その前段の契約・受発注といったプロセスのデジタル化も促され、「取引全体のデジタル化」が進むことも期待されます。デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組むなら、その基盤整備において避けては通れないテーマであると言えるでしょう。

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