NTTデータ イントラマート
中山社長に聞く、
20年で変えたこと、変えなかったこと

NTTデータイントラマート中山社長

1998年にNTTデータの社内ベンチャーとして生まれたNTTデータ イントラマート。2000年に専門会社として独立し、ワークフローやビジネスプロセスマネジメント(BPM)領域のパッケージ製品やサービスプラットフォームを手掛けて20年目を迎える。国内最大級のシステムインテグレーター(SI)グループの中では独特な存在だ。設立メンバーで代表取締役社長を務める中山義人氏に、20年の歴史と今後の展開を聞いた。

―設立の経緯を教えてください。

私は1992年にNTTデータに入社しました。現在は受託開発ビジネスが見直されつつありますが、当時からお客さまに言われたものをそのまま作るより、自分たちが作ったものを世の中に問うてみたいという気持ちが強くありました。

社内に小さいながらも新規事業に取り組む部署があり、そこでERP(統合基幹業務システム)パッケージ開発を担当しました。しかし、事業として軌道に乗ることができず、理由を私なりに考えてみると、その1つは自前主義にありました。ネジ1本から自分たちで作るように、非常に高コストだったのです。また、直販の文化もありました。全国に多数の人員を配置していましたが、やはり“基盤に徹する”という意識があり、新規事業をどれだけやっても黒字になりづらかったのです。

そこで「自分でするにはどのような方法があるのか」と考え、社内ベンチャー制度に応募したところ認められました。当初の資金は数千万円ほどで、本業と同じビジネスモデルで新規事業を展開することができません。そこでゼロから作ることを止め、オープンソースソフトウェア(OSS)を活用しながら自分たちの付加価値を出すところに集中し、営業も私一人だけで直販ができませんから、全国のパートナーと共創していくことにしました。

製品開発では、当時から現在まで自分たちが開発したソースコードを公開して自由に開発できるようする「Open&Easy」をコンセプトにしています。ERPパッケージのようなユーザーが製品に使い方を合わせていくスタイルとは反対に、パッケージ製品の方を変えてユーザーが柔軟にフィットさせることができるようにしました。この点が評価され、初年度から現在まで黒字を続けることができています。

―20年の間にさまざまな変化があったと思いますが。

最初の転機は、国内企業で内部統制への対応が課題になった2002~2003年頃のことです。
事業の証跡を管理する必要性からいきなりワークフロー製品市場が出現しました。われわれは、既にワークフローの原型となる機能を取り入れていましたので、その点が注目され、現在まで12年連続のトップシェア(富士キメラ総研調査)を獲得しています。ワークフロー製品は従業員規模が大きいほど導入効果が高く、多数の大手企業に導入され、市場の拡大に応じて成長を続けることができました。その勢いに乗って、2007年に東証マザーズに上場しました。

ところが、その直後に販売が低迷しました。リーマンショック(2008年)の影響もありましたが、ワークフロー市場が急速に成熟化してしまったのです。ワークフローの三大機能は勤怠、旅費、小口精算で、これがすぐに大半の企業に行きわたりました。この流れは事前に予想されていたので、上場で得た資金を新製品の開発に当てましたが難航してしまい、2013 年に現行版の「intra-mart Accel Platform」をリリースしました。

intra-mart Accel Platform は、強みのワークフローを周辺領域、いわゆるBPMに広げることを目指した製品です。ワークフローが対象とした紙文書による稟議(りんぎ)は日本独自の企業文化で、市場も日本だけですから外資系ベンダーの参入がありません。しかし、BPMはIBMやOracleといった大手が存在するグローバル市場であり、われわれも独自色で対抗しましたが、製品が全く売れず、赤字すれすれの状態にまで陥りました。

そこで開発と営業が一緒にお客さまを訪問して直接意見を聞くことを繰り返したところ、製品を導入してもほとんど使われない実態が判明しました。実は、ワークフローはどんな企業でもほぼ共通しているので業界や業種ごとの知識がなくても売れますが、BPMは製品の使われ方が業界・業種ごとに違います。そのことを知らないまま製品を提案しても、お客さまと話ができません。社内もワークフロー製品の成功体験にしばられ、「作れば何でも売れる」というプロダクトアウトの発想にとらわれていました。

改めてお客さまが製品を使うために必要な機能や要件を徹底して、再度開発した機能を直接お客さまに確認してもらう作業をとにかく繰り返しました。お客さまの声を直接聞くようにしたことでだんだん製品が売れるようになり、今期(2020年3月期)はBPM 製品の成長が前年比60%増で推移するまでになりました。

―BPM市場の拡大が期待されるのでしょうか。

ここには「働き方改革」の追い風もありますが、実は業務を自動化したいというニーズの高まりに対し、成功している海外製品でも導入先は大手企業ばかりで、すそ野が広がっていません。

欧米企業は日本と違い、ジョブディスクリプション(職務記述書)がベースにあります。
業務プロセスが非常に簡潔でスムーズに仕事が流れ、BPMを適用しやすい。しかし、日本企業の業務プロセスは非常に複雑です。良い悪いと指摘されますが、日本の商慣習そのものであり、海外製品で対応しようにもカスタマイズをせざるを得ませんし、追加費用がかかります。

われわれは、既にワークフロー製品で複雑な業務プロセスに対応する機能を標準として開発しました。それをBPM製品に展開して、カスタマイズが伴ってもトータルコストを抑えられる点が受け入れられつつあります。

また、RPA(ロボティックプロセスオートメーション)ブームの影響もあります。多くの企業がRPAによる業務の自動化にメリットを感じていますが、RPA自体は個別最適の手段で、個人作業の自動化にとどまります。そこで、個人作業を相互につないで自動化すれば業務プロセス全体をより短縮できる点に企業が気づき始めました。われわれも個別最適から全体最適にシフトすることを訴求しており、RPAからBPMに発展させていくという流れが生まれつつあります。

―新しい取り組みはいかがでしょうか。

国産でBPM製品を手掛けるのはわれわれだけですが、いずれ市場の成長に注目して競合が参入します。そこで個別最適から全体最適への提案をお客さまに行う「DX(デジタル変革)アプローチ」というコンサルティングのメニューを導入しました。ツールの効果を最大化するには、現状の業務を最適化するだけではなく、あるべき姿に変えていかなければなりません。まず上流工程からお客さまのもとに入り、現在の業務を可視化する必要があります。

これまで製品を開発して販売するシンプルなビジネスでした。製品はプラットフォームに過ぎずお客さまの目的がコスト削減になりがちですが、製品の活用を支えるためのコンサルティングの導入は、社員にとっても、お客さまの業務が変わることに直接携わる新しい体験となり、意欲が様変わりました。活用に重きを置くことで、お客さまの目的がコスト削減から競争力の向上に変わります。
また、BPMが中堅企業にも導入できることが分かってきました。例えば、食品メーカーのカンロでは年間300 近い商品を開発しており、市場動向を踏まえた開発から卸しまでのプロセス全体を短縮すべくintra-martを導入しました。現在は業種/業界別のアプリケーションの提供に取り組み、まず製造業向けに修理・保守、購買、営業の各プロセスを自動化する3製品をリリースしました。今後は各種業界向けにリリースしていく計画です。

―紆余曲折を経ながらも当初からのビジネスモデルが成長につながっているのでしょうか。

オープンな製品開発とパートナーとの共創によるビジネスモデルを20年続けられたことは幸せです。現在はプラットフォームの立場で、その上でパートナーが多数のアプリケーションを開発、提供しています。このモデルは、海外では珍しくありませんが、国産ではわれわれとサイボウズさんくらいではないでしょうか。

―日本企業にとってDXが経営課題になっています。SIのNTTデータから全く異なる事業を立ち上げた経緯は、DXに通じるものがありそうですね。

SI企業を中心に、われわれの歴史を紹介してほしいと要望をいただくことが増えています。人手不足もあり、受託開発のビジネスモデルに限界を感じているところが多いようです。デジタル時代に即した新規事業を生み出そうにも、確立された受託開発ビジネスの中で、そのタネやアイデアを拾う余裕はなかなかありません。

新規事業を立ち上げる方法は幾つもありますが、私の場合は社内ベンチャー制度を利用して、本体から離れたところで、日頃感じていた疑問を解決する方法を試す場が与えられたことも幸いでした。

―NTTデータとイントラマートの関係性も変わりましたか。

上場企業となり経営的にも完全に独立しています。会社のカルチャーもNTTデータグループの中では独特な存在ですね。現在はそれぞれの強みを相互に活用する関係にあると思います。

例えば、イントラマートが上場した後、私の出身部門で手掛けていたERP事業に陰りが出ていました。立て直しを図るために私も協力し、イントラマートと同じビジネスモデルを使って「Biz∫」という形(NTTデータ・ビズインテグラル)で再出発しました。現在は1000社を超える企業に採用していただけるビジネスになっています。NTTデータとしても、“出島”で生まれたイントラマートのビジネスモデルをうまく活用できた形です。

逆に、われわれが海外市場へ打って出る上で、NTTデータの知名度や世界の拠点と連携できるメリットがあります。BPMは欧米のベンダーが作り上げた市場なので、まだこれからですが、まずは日本とビジネスの感性が似ている中国や東南アジアに注力している段階です。

―BPM領域で欧州発の「プロセスマイニング」にも取り組み始めました。まさに欧米勢が強いですが、なぜ参入したのでしょうか。

プロセスマイニングは現状の業務を分析してあるべき姿を作る「計画」段階が対象で、BPMはあるべき姿へ変わるための「実行」段階を対象にしています。欧米は業務プロセスが簡潔ですから、「計画」段階でプロセスマイニングツールを使って現状業務を分析し、すぐにあるべき姿をシミュレーションして、トップダウンで翌日からBPMを「実行」できます。
日本は複雑で、そうはいきません。欧州が圧倒的に強いですから、欧州のツールを日本へ導入することにしました。

「計画」段階は欧州の手法ですが、われわれとしては「実行」段階にコンセンサスが重視される日本企業のスタイルに合わせて、「BPMワークショップ」を行っています。自動化の対象になる業務に精通した現場の方に数十人規模で集まってもらい、現場主体で業務の現状を分析してあるべき姿を一緒に作り上げ、実行計画を経営層に提案します。欧米とは逆のボトムアップ型ですが、日本ではこの方がモチベーションになり、後戻りが少なく推進力になります。中国やアジアでも似ています。

―DXに関しては、経済産業省の「DXレポート」でERPなど業務系システムを“近代化”する必要性が叫ばれています。ここからのニーズも高まっているのでしょうか。

その流れはあります。というのも、新しいパッケージやサービスは基本的にカスタマイズを許容しません。ユーザーはこれまで作り上げたカスタマイズを別のプラットフォームに移さなければならず、移行先として採用されるケースが多いですね。

また、ローコード開発環境が用意されているかどうかもポイントです。現在はクイックに開発する必要があるのはもちろん、パッケージでは難しいカスタマイズがDXにおける競争力の源泉となるからです。DXのゴールは誰にも分かりませんし、ユーザーはアジャイルで試行錯誤を重ねながら成功に近づいていかないといけません。

―次の5年間をどう予想しますか。

業務自動化のニーズはますます拡大していくと思います。加えて、今注目しているのは、課題解決の方策を個社ではなく業種・業界ごとに共同開発していくという流れです。

例えば、物流なら配送コストの上昇という課題に対し、共同輸送プラットフォームのようなものを一緒に開発することでコストを下げようとしていますが、実はそれを通じて社会課題の解決にもつながっていきます。同様のニーズは他の業界からも出てきていますし、パートナーとともに業務を自動化するといった技術をそのような領域にまで広げることで、個社レベルにとどまらない業種・業界の課題を解決して全体を底上げできるようなムーブメントを作りたいと思います。

三菱商事太陽との取り組みでは、障害を持つシステムエンジニアの方々がわれわれのローコード開発ツールを使って、二アショア型で三菱商事太陽のさまざまな業務アプリケーションを共同開発しています。これをパートナーとも進め、さまざまな企業のアプリケーション開発を支えるエンジニアのコミュニティーに広げていこうとしています。

もちろん、このような新しいモデルを発想し実現していく人材を育てないといけませんし、挑戦でもあります。われわれの強みを社会課題の解決にもつなげていける可能性を考えてみるだけでもわくわくしますし、このような形で社会にとって不可欠な存在になりたいですね。

※本記事は、2020年2月にZDNET(朝日インタラクティブ)で掲載された記事です